兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #51

科学を俯瞰する

Selected by 安積秀幸副校長先生


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平成27年8月1日の神戸新聞
「物理学を俯瞰する大教師」というタイトルで、
甲南大学元教授・京都大学名誉教授の佐藤文隆先生が、
ノーベル賞を受賞され7月5日に死去された
南部陽一郎先生との思い出を書かれています。

印象に残っているのは、


 1960年ごろまで、物理という物語を語って聞かせる
 偉大な理論物理学者がいた。
 「物理とはこう考えるのだ」と提示する「教師」のような存在だ。
 ドイツのハイゼンベルグ、ロシアのランダウ
 米国のオッペンハイマーファインマン……。
 南部さんはこの列に連なる最後の世代だった。

 彼らに共通するのは、代表的な業績がよく分からないこと。
 (中略)
 つまり、南部さんは物理学全体を俯瞰する大教師だった。
 私はノーベル賞より、そのことに、はるかに偉さを感じる。


という後半の部分です。
ハイゼンベルグ、ランダウオッペンハイマーファインマン
学生時代には必死に勉強した懐かしい名前でした。

領域を超えて科学に携わった方々の紹介です。






ペンギン

ペンギンが教えてくれた物理のはなし
渡辺佑基 著(河出ブックス)



とにかくタイトルに魅かれて読み始めました。
最初は物理には関係がない話が続いており、
物理ではなく生態学の話の本と失望しました。

著者はバイオロギング*の大家で、
魚なら泳ぐスピードやどれくらいの深さまで潜っていくのか、
鳥ならばどれくらいのスピードで
どれだけの距離をどのルートで飛んでいるのか
を調べる機器の歴史と調査内容を延々と書かれています。

*バイオロギング(Bio-logging):
バイオ(生き物)+ロギング(記録を取る)を組み合わせた和製英語
超小型のデジタル記録計を野生動物からだに取りつけ、
その行動を計測する調査手法を指します。



しかしながら、その機器の開発に水や空気の抵抗、
動物の体の比重など物理現象をいかに活用するかの苦労話は
物理の教員である私には興味深いものがたくさんありました。
最初の失望感は吹っ飛んでしまっていました。

それにしても、この渡辺佑基さんは「いちびり」ですね。
読んでいて吹き出してしまいました。
また、観察に出かけた先々の料理を細かに書かれていますので、
一度食べてみたいと思いながらのひと時でした。


 鳥類のペンギンだけではなく哺乳類のアザラシやクジラ、
 爬虫類のウミガメなどは、
 三億五千万年前までは水中でえら呼吸をしていて、
 気の遠くなるような時間をかけた進化の過程で
 肺呼吸を始めていながら、
 その肺呼吸のメリットをふいにして、
 むしろそれが致命的なデメリットになる海の中の生活に、
 なぜ還っていった。
 なんという非効率。なんという行き当たりばったり。


と書かれていることに、「なるほど」と納得してしまいました。






どみとり

ドミトリーともきんす
高野文子 著(中央公論社



この本は、鳥取のYさんから送られてきた本の1冊です。
以前一緒に勤めていましたとき、Yさんとは
中谷宇吉郎寺田寅彦等の科学者の話をし、
理科を専門にしている私よりも科学全体をよくとらえておられ、
大変多くのことを教えていただきました。

『ドミトリーともきんす』は漫画仕立てですが、
とも子さんと娘のきん子さんの住んでいる学生寮に、
朝永振一郎」「牧野富太郎」「中谷宇吉郎」「湯川秀樹」の
4人の寮生が2階に暮らしている設定で、
それぞれの科学者と著作が紹介されています。

とも子さんはジョージ・ガモフのファンで、「ともきんす」という名前は
ガモフの『トムキンスの冒険』から取ったと言っています。

とむきんす


特に湯川さんの章ではなかなか難しい話が書かれています。
しかしそれぞれの章の終わりには
著作がわかりやすく紹介されており、
興味がわいてきます。

朝永さんのところでは、以前第5回で紹介しました
「滞独日記」について書かれています。

わかりにくい科学の話を漫画で紹介すると、
余計にわかりにくいところもありますが
雰囲気で読んでいくと割合にほんわかとした気持ちで、
時々あたらしい発見をすることができました。

それぞれの4人の科学者の著書は
買っていながら読んでいない本も紹介されています。
意を決して読んでみようという気になりました。






* 「副校長の読書散歩」とは?

副校長の読書散歩 #50

好みの本を紹介

Selected by 安積秀幸副校長先生


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兵庫県播磨高等学校では読書の学校づくりの一環として
朝の10分間読書を行っております。
学校の生徒や職員に読んでもらいたい
本の紹介から始まった「副校長の読書散歩」も
第50回になりました。
鳥取のYさんや友人の国語の先生をはじめ、
薦められた本はたくさんありますが、
そのうちの気に入った本、面白かった本について
思いつくままに書いてきました。

大学の恩師の米山徹先生には、「なかなか幅広くてよろしい。」
と褒めていただきました。思いもよらない方から
「読んでいますよ。」
と声をかけていただくこともありました。

読書感想文を書くのが大嫌いの私が、
つれづれなるままに読み散らした本の話です。
少しでも本を読んでみようという気に
なっていただけたらと思っています。

今回は、様々な本を紹介されている本を2冊紹介しましょう。





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戦争よりも本がいい
池内紀 著(講談社



この本は、新聞の書評欄に紹介され、
著者が姫路出身の池内紀先生でもあり、
また、書名が『戦争よりも本がいい』と
「そりゃそうだ」と思ったことがきっかけで、
岩崎東里先生に「この本読んでみたい。」と言ったのです。

この本のあとがきには、

 「書きはじめのころは、自分の仕事場の本棚から本を選んだ。
 これは簡単だった。なじみの本であって、
 なじみの店のようによく知っている。(中略)
 つぎには、わが家のあちこちの書棚から選んだ。
 (中略)そのつぎには、書棚の奥に隠れている本から選んだ。
 (中略)その間にも出かけるたびに、これと思う本を買ってきた。
 (中略)ここに収めた百二十九冊は、
 そんなふうにして選ばれた本たちである。」

とあります。

1冊につき3ページ。それぞれの本の紹介の後に書かれている
「もうひとこと」の小文がまたまたすばらしい。
紹介文を読み終えてこの「もうひとこと」を読むと、
「この本いいなあ。読んでみたいなあ」と背中を押されます。

読み始めて、手元の紙に「いいなあ、読んでみたいなあ」と
思った本をメモし始めました。
見る見るうちにいっぱいになり、ノートに書くことにしました。

『みみず』、『新編 薫響集』、『しぶらの里』、
『餅博物誌』、『戦争と気象』、
『偉人暦』、『味覚極楽』、『食道楽』、『銀座』、
『金谷上人行状記』、『冗談十年』……。

次々と出てきます。うれしいやら困ったやら。

紹介されている本で、
私が読んでみたことのあるのは1冊だけでした。
本当に池内紀先生の書棚を覗いてみたいと思った1冊です。








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柔らかな犀の角 山粼努の読書日記
山粼努 著(文藝春秋



 「犀の角は堅いと思っていましたが、インドサイの角は、
 実はぶよぶよで闘争の武器にはならないそうです。」

その解説から始まっています。

この本を紹介いただいたのは、
以前登場いただいていたアピックスの鈴木朝子さんです。
私がこの「副校長の読書散歩」を書かせていただいていることから、
「参考にしてください。」と貸していただいたことがきっかけです。
だいぶ前にお借りしたのですが、
みをつくし料理帖」シリーズに熱中してしまったことで、
ポーランド研修旅行に持って行ったものの読まずに帰ってきました。
結局長い間お借りすることになってしまいました。

さすがに俳優をされている方の視点やら
人とのつながりは素晴らしく、感心しながら拝読しました。
最初に索引を見て、何よりもそのページ数に驚きました。
ゆっくり見ますと、「書名索引」、「人名索引」、
「映画、演劇、テレビ(タイトル)索引」、
「その他索引」と分けてありました。
ユニークな索引と思われませんか。

中身も面白く、特に最後の「臨終図巻」で出てきます
山田風太郎の『人間臨終図巻』が面白く感じました。
いろいろな方の臨終を描いているようです。
山田風太郎は第26回でも紹介しましたが、
『人間臨終図巻』は旧香寺町図書館で
山田風太郎に凝っていた時に
読み残している1冊です。
その当時は「臨終なんて縁起でもない」と思っていました。
しかし、山粼さんの紹介で読んでみる気になりました。





* 「副校長の読書散歩」とは?

夏休みの図書館より

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いよいよ夏休みが始まりました。

図書館では、「夏休みプロジェクト」と銘打って、
図書部の部員に参加してもらいながら、
書架の整理を行っています。

以前ご紹介した学習スペースには、
各種の辞書のほかに、
なるにはBOOKS」などの職業本、
面接・小論文対策本、大学入試関係の本を集めて、
利用しやすいスペースを作ろうと計画しています。
頼もしい2年生部員のおかげで、着々と進行中です。

また現在、図書館に入ってすぐのスペースには、
さまざまな「夏」を描いた作品を集めています。
読書感想文で取り上げる本に迷ったら、
まずはこのコーナーをのぞいてみてください。



コーナーの右手の2冊の絵本ももちろん夏がテーマの作品。「かいすいよく」へ!
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そして書架の一角に、新たに「陶芸コーナー」を設けました。

中段右手の雑誌サイズの「馬」は、安積副校長先生からいただいたもの。
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先日、兵庫陶芸美術館篠山市)を訪れました。
同館は、今年、開館10周年を迎えます。

その記念企画として、
とてもユニークな「ガチャガチャ」が用意されていました。
カプセルの中に入っているのは、なんと、
同館の陶芸指導員の方がろくろで手作りしたという
小さな丹波焼の作品です。


小さなミルクピッチャーです。ぜひ、図書を眺めながら手にとってみてください。
陶芸コーナー_convert_20150722180750



さて、
本校では、今月の下旬から8月にかけて
中学3年生を対象にした「夏のオープンスクール」(体験入学)
を実施します。

見学に来てくれた中学生の皆さんに喜んでもらえそうな
図書館のおもてなし」を準備中です。



*「夏のオープンスクール」について 
 クリックすると詳細ページが開きます。

「図書だより 7月号」

※画像をクリックすると、別画面にて表示されます。
  ズームアップしてご覧ください。

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図書だより7月号です。


間もなく、夏季休業が始まります。

普段はあまり手に取らないような作品に挑戦できるのも、
長期休暇の醍醐味(だいごみ)です。

自分だけの、
「この夏の1冊」を探してみませんか。

また、学習スペースとしての利用も大歓迎です。

*開館スケジュールをよく確認してくださいね。

副校長の読書散歩 #49

親友の突然の訃報

Selected by 安積秀幸副校長先生


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5月9日の土曜日、親友の訃報の連絡が突然ありました。
一緒に机を並べ遅くまで仕事をし、
何回となく酒を酌み交わし、
仕事の事では激論を交わし、
言いたいことを言える本当の親友の突然の死でした。

おりしも出張中で告別式にもお伺いすることもできませんでした。

先日、ご家族の方も少し落ち着かれたとお聞きしてお伺いしました。
写真に手を合わせて、心の中では「ばかたれぃ!」と叫んでいました。

ご家族とお話をしていて5月18日の「神戸新聞文芸」欄に、
生前投稿した詩が掲載されたことを知り、
そのコピーをいただいてきました。


 「一つの終わりは」

  一つの終わりは
  一つのはじまり

  雲がちぎれて
  別の雲にくっつくように
  浮かんでいればいいのだ

  一つの終わりは
  一つの始まり

  水面に浮かぶ落ち葉が
  流れに身をまかすように
  浮かんでいればいいのだ

  辞世の詩。





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必然
石原元秀 著(神戸新聞総合出版センター)


彼は、私と同じ年です。
2011年7月に定年を機に、彼はこの本を出版しました。
その時に送っていただいた本です。

文系の彼と理系の私とは全く感性が異なり、
この詩集をいただいた時には、
「またまた、我々にはわからん詩を書いてからに。」
と言ったことを覚えています。
改めて読んでみますと、あとがきには驚くことが書いてありました。
 
 今こうして五月の若葉に囲まれていると、
 この緑の中へ帰ってゆきたいような気がする。
 できれば五月の緑に溶けてしまいたい。
 (中略)
 生きていることと死んでいることはどう違うのだろう。
 あまり違いはないような気がする。
 生と死はすぐ次の瞬間に入れ替わるのだから。(後略)

この4年後の五月。
五月の緑に溶け込んで、緑の中へ帰って行った親友。
生と死を瞬間に入れ替えて逝ってしまった親友。
やすらかに。




* 「副校長の読書散歩」とは?

副校長の読書散歩 #48

シーボルトと幻のアジサイ

Selected by 安積秀幸副校長先生


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今、我が家の庭にアジサイの一種の
シチダンカ(七段花)が清楚な花を咲かせています。
このシチダンカは幻のアジサイと呼ばれています。

なぜ幻なのか。

実はシーボルトが著した日本植物誌(フローラ・ヤポニカ)には
このシチダンカが紹介されているのですが、
日本国内ではその後見つからず「幻のアジサイ」と呼ばれ続けていました。

しかし昭和34年7月5日、当時六甲山小学校に勤務されていた荒木慶治氏が
六甲ケーブル西側の谷筋で発見されたのです。
その後挿し木などで増やされ、その一株が我が家にやってきてから
20年以上になりますが、毎年花を咲かせてくれています。

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そのシチダンカにかかわる本を紹介しましょう。







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先生のお庭番
朝井まかて 著(徳間書店



シーボルトが出島に作った薬草園を任されていた熊吉は、
シーボルトにはコマキと呼ばれています。
シーボルトが日本の植物の研究のために日本全国から集めた植物を栽培し、
生きたままオランダに運ぶためにいろいろと知恵をしぼります。
奥さんのお滝さん(オタクサ)や使用人のおるそんとの生活が
興味深く描かれています。

シーボルトは気に入ったアジサイ
奥さんと同じ「オタクサ」という名前を付けます。
強烈な嵐がきっかけで
シーボルトが日本地図を持ち出そうとしているのが発覚し、
いわゆる「シーボルト事件」が起こります。

シーボルトが日本をどのように感じ、どうしようとしていたのか。
オランダよりアメリカやイギリスが力をつけてきている時代に、
それぞれの国にどのように働きかけようとしたのかが書かれています。
再びシーボルトが日本にやってきて、
娘の以祢(いね)を通じて熊吉に「フローラ・ヤポニカ」を届けます。
その植物を回想する中でシチダンカが初めて出てきました。









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日本植物誌 シーボルト[フローラ・ヤポニカ]
シーボルト
解説:木村陽二郎、大場秀章(八坂書房)



我が家にシチダンカがやってきてしばらくして、
この日本植物誌が出版されました。
早速買い求めました。

シーボルトが気に入っていた
「ハイドランジア オタクサ」が表紙を飾っています。
八坂書房は植物関係の素晴らしい本を数多く出版されています。
しかし、残念なことにシチダンカはカラーでなく
白黒で掲載されていました。

解説には「シーボルトと植物学」「シーボルトの『日本植物誌』」の
2編が掲載されています。
シーボルトを取り巻く日本の門人たちや、シーボルトの日本への関心、
帰国後の活動がよくわかります。







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シーボルト日本植物誌
シーボルト
監修・解説:大場秀章(ちくま学芸文庫



この本は2007年(平成19年)に刊行されています。

八坂書房の『日本植物誌』は
シチダンカがカラー印刷でなくて残念に思っていましたが、
この本にはカラーで紹介されています。

また、一つ一つの植物画に詳しい説明が書かれていて
植物図鑑としても活用できます。
植物画を描いた川原慶賀のことも
八坂書房版と同じように詳しく書かれています。

それにしても、植物画は本当にていねいに書かれており、
彩色も素晴らしいものです。
写真ではない、美しい絵も楽しんでいただければと思います。








* 「副校長の読書散歩」とは?