兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

「図書だより 12月号」

※画像をクリックすると、別画面にて表示されます。
  ズームアップしてご覧ください。

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図書だより 12月号」です。

冬季休業が近づいてきました。

年内は、12月25日(金)まで開館しています。
年末年始にゆっくり楽しむ本を探してみませんか。

副校長の読書散歩 #54

戦後70年

Selected by 安積秀幸副校長先生


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今年は戦後70年ということで、
8月1日には終戦の玉音放送*にかかわる情報が公開されました。

先日米山徹先生に、電話で、
「戦後70年という区切りの年は、
戦争を経験された方々からまだ体験談を聞くことができる年です。
80年、90年となると身近な方から聞けなくなってしまいます。
先生は終戦の8月15日はどうされていたのですか。」
とお聞きしました。

先生は、
疎開先で食糧調達に出かけていて玉音放送は聞いていない。」
と言われていました。
体験談を書いていただくようお願いしました。

戦争を体験した方々の生の声を、今聞いておかねばと思います。


*1945(昭和20)年8月15日正午、日本放送協会から放送された、
 昭和天皇による終戦の詔書の音読。太平洋戦争における日本の降伏を国民に伝えた。







十二月八日と八月十五日

十二月八日と八月十五日
半藤一利 著(文春文庫)



戦後70周年の今年は
第二次世界大戦にかかわる本が数多く出版されています。

この本を読むきっかけは、鳥取のYさんからいただいたことです。
私にとって新しい視点で書かれており、
興味深く通勤途中の電車の中で読みました。

真珠湾を日本軍が攻撃し、太平洋戦争が始まった「 十二月八日」と、
天皇玉音放送があり日本が無条件降伏をした「八月十五日」の様子を
時間ごとに分けて、どのようなことが起こり、
そのことに日本人がどのように考えていたかを
文人などの著作の中からの文も紹介しながら書かれています。

「十二月八日」では、米英に対する宣戦布告に
日本国中が狂喜乱舞した様子が書かれています。
ただ軍部の上層部の一部には、
勝ち目のない戦争に対し短期決戦でなければならない
という考えがあったことも記されています。

一方、「八月十五日」は、
天皇玉音放送前後の混乱が書かれており、興味深く読みました。
戦後生まれの私にとって、父や母から体験談を聞いてはいましたが、
「敗戦」ではなく「終戦」ととらえた当時の人々の感覚が
なんとなくわかるような気がしました。

別の本で、CDに収録された玉音放送を聞きました。
言葉のむずかしさと当時の雑音交じりの放送で、
本当にわかったのかどうかという思いです。
戦争を経験された方々にも当時の話を伺ってみたいと思います。






軍国日本と孫子

軍国日本と『孫子
湯浅邦弘 著(ちくま新書)



平成27年7月26日の神戸新聞の読書欄に紹介されていました。
その当時、毎日のように新聞やテレビでは
「安全保障関連法案」が報道されていました。

タイトルにある『孫子』は、米山徹先生から
学生時代に資料をいただいたことがあります。
また、この読書散歩の第10回に父の「囲師」にかかわる話を
紹介させていただいたこともあり、以前から興味を持っていました。

著者がこの本を書かれたきっかけは、
昭和天皇実録』が公開されたこと、
また、『昭和天皇独白録』に、太平洋戦争の敗因の1つとして
孫子の、敵を知り、己を知らねば、百戦危うからずという
根本原理を体得していなかったこと」が
あげられていたことだったと書かれています。

明治時代、大正時代、戦前と戦中、戦後の昭和時代に
孫子』がどのように読まれ解釈されたかが詳しく説明されています。
時の軍関係者がどのように『孫子』を利用したかを
興味深く読むことができました。
私は、どちらかというと戦後の「商戦としての『孫子』」
つまりビジネス書として『孫子』を読んでいます。

孫子』といえば武田信玄の「風林火山」が有名ですが、
あらためて『孫子』を読んでみたいと思っています。





* 「副校長の読書散歩」とは?

副校長の読書散歩 #53

再び朝井まかてさん

Selected by 安積秀幸副校長先生


再び朝井まかてさん




私が選んでしまう時代小説は、
江戸時代の人情味あふれた物が多いように思います。

読んでいて人を思う心にジーンとなったり、
時には涙が出そうになってしまうことがあります。

兵庫県播磨高等学校は海外に姉妹校が3校あります。
相互交流の中で相手校の先生方と話をしていますと、
必ず本校で取り組んでいます教養の話になります。

「形から入って心を育てる」話ですが、
その時にはふと今までに読んだ時代小説の
暖かい人と人のつながりが心に浮かんできます。

多くの時代小説は図書室からも借りて読みましたが、
岩崎先生にお借りした朝井まかてさんの小説を紹介しましょう。









花くらべ

花競べ 向嶋なずな屋繁盛記
朝井まかて 著(講談社文庫)



草木を扱い育てる花師の職人小説です。
質素倹約を奨励した松平定信も登場します。

出入りしていた職人から預かり育てている子どもの「雀」、
本当の名前は「しゅん吉」ですが、
少し鼻づまりで自分のことを「ちゅん吉」としか言えず、
いつの間にやら「雀」とよばれようになってしまいます。
その「ちゅん吉」がなかなか存在感のある動きをする、
ほほえましい小説に仕上がっています。

「なずな屋」という今でいえば
植木屋さんとか花屋さんになるような
仕事をしている夫婦が主人公になっています。
吉野太夫」の「吉野」が「染井吉野」になる
といういきさつもなかなか面白い話です。

人情味あふれる時代小説ですが、
ハッピーエンドではありませんでした。

大事な人を亡くした若旦那の
「寿命が尽きるその日まで生き抜くよ。精一杯稼いで、食べて、遊ぶよ」
は、話の流れから見てなかなかの一言と感じました。





恋歌

恋歌(れんか)
朝井まかて 著(講談社



直木賞受賞作品です。
歌人中島歌子の生涯を描いた小説です。

朝井まかてさんの小説は、
『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』も『先生のお庭番』も
植物が大きな位置を占めていますが、
この『恋歌』にはあまり植物は出てきません。

歌子の弟子が歌子の手記を読み始めることから始まります。
最初のころは話がどのように展開しているのか
分かりにくかったのですが、
幕末の安政の大獄、その実行の水戸藩天狗党
その中心人物に恋焦がれて結婚した登世は、
天狗党と諸生党との権力争いの渦に巻き込まれます。
壮絶な生涯です。

対立していた諸生党の中心人物の娘が
歌子のお手伝いさんをしているのですが、
その結末が想像もしていなかった展開でした。

日本史で習った人物がいろいろと出てきます。
ハラハラしながら読んでいきました。





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藪医 ふらここ堂
朝井まかて 著(講談社



新聞広告に出ていたのを見つけて、
岩崎東里先生にお借りした本です。

ふらこことはブランコの事です。
大きなヤマモモの木にふらここを懸けている
小児科医「ふらここ堂」の医師三哲は
自他ともに認める藪医者、
いや筍医者(これから藪に育っていく)ですが、
実は高名な医師の生まれで、医術をちゃんと修めた医者です。

それを表にせず言いたいこと言う口の悪い医者ですが、
いつも適切な処置をします。
その娘「おゆん」が主人公ですが、
おゆんも父親の生まれ育ちを知りません。

時代小説の例にもれず幼馴染の次郎助や次郎助の母のお安、
お亀婆さんをまじえた人情話です。
時代小説には必ずと言っていいほど心に残る言葉が出てきます。
今回も

秋の夕暮は不思議だ。
昼間はあんなに空が高いのに日が傾けば空が下りてきて、
人に近づくような気がする。
雲が茜色に照り映え、笑い声がよく響くのだ。

と、今まで思ったことのないような秋の風情が描かれています。

また、お亀婆さんはふらここを漕ぎながら、

「人はこうしてさ、ふらここみたいに揺れながら生きている。
正と邪の間をね、行ったり来たりしてるのさ。
正しいことばかりできる人間もいないし、
邪なだけの人間もまあ、めったといやしない。
ある日は正に振り切っても、ある日はどっちつかずの、
中途半端なことをしでかしている。正邪の目盛が違うだけでね、
そのいずれも己自身だ」

という一言も、印象に残っています。


*TOPの画像作成にあたり、素材をお借りしました。
 http://hibana.xii.jp/copyright.shtml



* 「副校長の読書散歩」とは?

学芸発表会でビブリオバトルに挑戦しました

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11月7日・8日は本校の学芸発表会でした。
図書部と読書部は、
合同で「ビブリオバトルに挑戦しました。

何度か練習を重ねて、迎えた当日の11月7日。
図書部・読書部の部員のほかに、
養護教諭の吉田先生と私(司書の岩崎)を加えた8人が、
一般観覧の方々も見守るなか、
各自が「面白い」と思う本を紹介しました。



この日紹介された本

『植物図鑑』
有川浩 著 (幻冬舎

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ぐりとぐら
中川李枝子・山脇百合子 作 (福音館書店

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『人生はニャンとかなる』
水野敬也・長沼直樹 著 (文響社)

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ダレン・シャン? 奇怪なサーカス』
ダレン・シャン 著 (小学館

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夜のピクニック
恩田陸 著 (新潮社)

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『火花』
又吉直樹 著 (文藝春秋

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『初恋の絵本』
藤谷燈子 著 (ハニーワークス

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村上春樹 自伝的エッセイ 職業としての小説家』
村上春樹 著 (スイッチパブリッシング)

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このなかで、発表者を含む参加者全員の投票によって
チャンプ本に輝いたのが、『植物図鑑』です。
紹介者は、図書部部長の2年生。

作中に登場する、野草を使った美味しそうな料理の数々
(主人公と恋に落ちる謎多き青年“イツキ”が作ります)
の調理方法に関する説明なども混じえながら、
とてもいきいきとしたプレゼンテーションを見せてくれました。

ほかの部員たちも、また観覧のお客様も、
熱心に聴き入っている様子が印象的でした。


『人生はニャンとかなる』を紹介したのは、吉田先生です。
たくさんの猫の写真が収められたユーモア満載のこの本は、
普段から部員たちの間でも人気が高かったものです。
ビブリオバトルの終了後、図書館に寄贈していただきました。


そして、『村上春樹 職業としての小説家』は
私が取り上げた作品です。

このなかで、村上春樹は自身のことを
「発展途上にある作家」と称しています。

「伸びしろ」は無限に残されている。
そのなかで、いかに自分自身の
「フロンティア」を切り拓いていくことができるか。
新しい未知の大地は、
いつだって、誰にだって切り拓くことができるんだ――
この作品を通して強く感じたそんなメッセージを、
とくに生徒のみんなに伝えたいと思いました。



学芸発表会の2日間に、校内では
百人一首、レシテーション、お菓子づくり
イラスト、パソコン、電卓、お弁当のレシピコンテストなど、
さまざまな「コンテスト」が開催されます。

ビブリオバトルで「チャンプ本」を紹介した図書部の部長は、
朗読コンテストにも参加し、
『君の膵臓を食べたい』(住野よる著/双葉社)の中から、
司書と図書委員が図書室でおまんじゅうを食べるシーンを取り上げて
見事1位に輝きました。


                   
ビブリオバトルとは:
 レジュメやパワーポイントといった資料を用いずに、
 自分の言葉によって本の魅力を紹介する「知的書評合戦」です。
 2006年、当時京都大学の研究員だった谷口忠大氏によって考案され、
 現在では、小中高等学校をはじめ、書店のイベントや企業の研修会など、
 さまざまな場面で「人を通して本を知る 本を通して人を知る」
 ことのできるゲームとして実践されています。

 【公式ルール】
 ・発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
 ・順番に一人5分間で本を紹介する。
 ・それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
 ・全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を
  参加者全員で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

秋を満喫

読書の秋_convert_20151012150138


朝晩の風に、
季節の移ろいを感じるようになりました。

図書館のディスプレイも、秋色に染まっています。


さて、今年のノーベル賞は、
梶田隆章氏(物理学賞)と大村智氏(生理学・医学賞)の
日本人2名が受賞したことでも話題となりました。

村上春樹さんの文学賞受賞は残念ながら
なりませんでしたが、
引き続き、館内にある全作品を集めた
村上春樹コーナー」を展開中です。

ずっしりと重みのある「村上春樹全作品」の中の1冊を
借りて行った生徒もいました。

新聞記事紹介_convert_20151011132513
村上春樹コーナー展開中_convert_20151011132622



そして今月20日からは
本校の姉妹校である、
ポーランドのナザレ校からの留学生が来校します。

ポーランドを知るための入口は
ひとつではありません。

このコーナーでは、
ポーランドの言葉や歴史、文化、そして文学作品など、
さまざまな「きっかけ」を紹介しています。

ポーランド ナザレ校来校によせて_convert_20151011132400




図書館に入ってすぐのコーナーでは、
「秋の夜長」に手にとってみてほしい
心が満たされる本を紹介しています。

ざるいっぱいの柿やきのこ、
ハロウィンのランタンに詰め込んだキャンディ、
そして雲のそばで遊ぶ親子のうさぎは
手芸部の生徒による新しい作品です。
こちらもぜひ注目してみてください。




*1979〜1989年と1990〜2000年という時代区分で、
 2組(8巻+7巻)のボックスセットになっています。
 外箱はもちろん、表紙の絵柄も1冊ずつちがっており、
 眺めているだけでも楽しめます。講談社発行。

副校長の読書散歩 #52

「永仁の壺」事件

Selected by 安積秀幸副校長先生


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私の手元に、小山冨士夫さんの、
種子島の土で作られた徳利と小ぶりの湯呑があります。
そのこともあり、小山冨士夫さんの生き方や研究に興味を持っておりました。

とっくり ゆのみ

底の紋 箱書き
*箱の文字は、
 右が「種子島徳利」と書いてあって、これは徳利の名前です。
 左は「花木窯 古山子」。
「花木窯」は小山冨士夫さんの窯(陶芸で焼く工程を行う場所)で、
 小山さんは昭和47年、岐阜県土岐市に花木窯を開きました。
 「古山子」というのは、小山さんが作品を作る時に使われた
 号(創作活動を行う際に、本名とは別に使う名前)です。
 
 小山さんは種子島の土をとくに好んで作陶したそうです。
 種子島の土にはサンゴが混じっており、
 作品にもサンゴの白い粒がみられてなかなか面白い風情です。
 湯呑も、見た目では分かりにくいのですが
 ルーペなどで拡大すると白い粒がよく見えます。

昭和35年8月に、鎌倉時代に作られ、松留窯跡から発見されたという
古瀬戸の「瀬戸飴釉永仁銘瓶子」と言う名の壺が小山冨士夫さん推薦で
重要文化財として指定されました。

しかしこの壺が偽物であるという疑惑が生じ、最終的には昭和35年9月、
加藤唐九郎さんがパリで「自分が作った」と記者会見したことにより
壺の由来も全くの作り話で偽物であることが発覚して
翌年4月に重要文化財指定を取り消しとなりました。
この事件が、有名な「永仁の壺事件」です。

小山冨士夫さんは、陶磁器の研究家として有名であるだけでなく、
陶芸家としても有名で
姫路の山陽百貨店でも「小山冨士夫作陶展」を開催されています。

小山冨士夫さん関係の本は『ものいわぬ壺の話』、
『徳利と酒盃 漁陶紀行 小山冨士夫随筆集』、
岡山県立美術館の図録『特別展 小山冨士夫−陶に生きる−』
の3冊を持っています。

幸運なことに、小山冨士夫さんをご存知の方に
話をお聞きすることができました。
「人として、幅も奥行きもあるすばらしい方でした。」
と教えていただきました。

小山冨士夫さんの人となりの一端がわかる本を紹介します。







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ものいわぬ壺の話
臼井吉見 著(筑摩書房)



この本を読むきっかけは、先に紹介した『戦争よりも本がいい』で
池内紀先生が紹介されていたことです。1976年7月出版です。
「日本の古本屋」で検索して見つけました。

「謹呈の付箋付」と書かれていましたので、
これも1つの楽しみに待っていました。
届いた本の付箋には、著者の名前が青いインクで書かれていました。
ところが、他に数文字がインク消しで消されており、
読み取ることができませんでした。

第52回付箋


近頃の携帯電話のカメラは赤外線を完全にカットしていませんので、
そのカメラを通せば読みにくい字も読める場合があります。
今までも薄くなって読めないような字があると、
携帯電話で写真を撮って読んでおりました。同じように試してみました。

撮影した写真をパソコンに転送し、
コントラストを強めるなど加工してみると
「御教示ありがとうございました」というお礼の言葉と
「狩野近雄様」という名前を読み取ることができました。
『好食一代』等を書かれた狩野近雄氏に
謹呈された本ではないかと思います。

この本は、小山冨士夫さんがかかわった
「永仁の壺」事件を小説にしたものです。
登場人物の東金藤十郎加藤唐九郎さん、
大野文雄は小山冨士夫さんです。

 美術品のねうちを判断するのに、基準というものはない。
 (中略)
 科学的には、カーボン・テストなんて
 炭素の残量による時代判定の方法もある。
 しかし、いずれも補助手段であって、決定は、
 鑑定者の能力、経験から割り出した判断によるしかない。
 勘とも違います。
 勘は主観性が強く、危険が伴います。
 (中略)
 つきつめて行けば、神様だけが知っているということになります。

という大野技官の言葉は、なるほどそうだという思いです。

今、この永仁の壺はどうなっているのか、非常に興味があります。
できれば一度手に取って見てみたいと思います。








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徳利と酒盃 漁陶紀行 小山冨士夫随筆集
小山冨士夫 著(講談社文芸文庫



小山冨士夫さん作の徳利と湯呑が手元にあることから、
タイトルに魅かれて読んでみました。

宋代の定窯の発見は、銃弾の飛び交う中であったこと、
完全な形で残っているものだけでなく
陶片も大切にして研究されていたことなど、
小山冨士夫さんの焼物に対する深い愛情を感じながら読みました。

岡山県立美術館発行の図録には、
この随筆に出てくる陶片や茶碗の写真が紹介されています。


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この随筆集には永仁の壺事件に触れた記述は全くありません。
永仁の壺事件の加藤唐九郎さんの証言で
小山冨士夫さんは文化財保護委員を辞任されますが、
森孝一さんによる「温心寒眼のひと」と題した解説の文に、

 証言の後も、加藤に対する小山の非難めいた発言は
 一切聞いたことがない。
 これを矜持と見るべきか、あるいは加藤を許す気持ちだったのか、
 小山が沈黙し続けた以上、いまとなっては知るすべもない。
 しかし、その後の小山に苦悩がなかったといったら嘘になるだろう。

と書かれています。このことと、
随筆に永仁の壺事件に触れられていないことが、
通じているのではないでしょうか。

「温心寒眼」
つまり、「あたたかい心とつめたい目」が
研究者の心得として必要だと
小山冨士夫さんは言われていたようです。

実物を見、触れることは何事にも大切だと改めて感じました。







* 「副校長の読書散歩」とは?

将来を考える1年生の皆さんへ

皆さんが進路を考えるうえで、
自分から行動を起こしてみることが大切だと考えている本校では、
読書を行動のひとつと捉えています。
誰かの物語を通して心が震える体験が、
それぞれの将来像を形づくっていくと思うからです。

本校オリジナルの進路指導テキスト
「ハーベストアワー」で推薦された本を紹介します。


◆1年生


〜 いのちのバトン――“生かされている”ことに気付く2冊 〜

?かないくん  ?pray for japan  


『かないくん』 谷川俊太郎松本大洋
ある日、クラスから、突然いなくなった「かないくん」。
日常に不意に訪れる「死」を、選び抜かれた言葉と絵で
浮かび上がらせた一冊。


『PRAY FOR JAPAN 3.11世界が祈り始めた日』
2011年に起きた東日本大震災のあとに、
「PRAY FOR JAPAN」という言葉とともに
世界中から送られたメッセージと写真を集めた一冊。





〜 将来に向かって、悩み、考え、踏み出す――“働く” ヒントをくれる2冊 〜

?魔女の宅急便  ?みんなのなやみ 


魔女の宅急便 角野栄子
魔女として独り立ちするために、
初めての街にやってきた魔女のキキと黒猫のジジ。
自分が役立てることはなんだろうと、
キキが一所懸命に考えて選んだ職業とは?


『みんなのなやみ』 重松清
「わたしがいま抱えている、
どうしようもない感情のことを、聞いてください」
――10代の若者たちの、よくあるようで、唯一無二の悩みに、
著者がていねいに答えていく一冊。





〜 青春と喪失――“生きる自分” を見つめなおす2冊 〜

?オレンジアンドタール  くちびるにうたをリサイズ


『オレンジ・アンド・タール』 藤沢周
同級生の自殺をきっかけに、主人公たちは考え始める。
自分はどうして生きているのだろう、
自分とは何だろう。


『くちびるに歌を』 中田永一
長崎県五島列島の中学校を舞台に、
全国コンクールを目指す合唱部とその家族の物語。
日々に懸命に取り組むことを通し、主人公たちは自分の生き方に向き合う。





〜 生・愛・死――“これまで” と ”これから” に触れる2冊 〜

?何もかも憂鬱な夜に(文庫)  ?八日目の蝉  


『何もかも憂鬱な夜に』 中村文則
「僕」は刑務官で、施設で育った。
担当するのは夫婦二人を刺殺した二十歳の死刑囚。
「こんなにも生きる意味を教えてくれる小説はなかった」(解説より)


『八日目の蝉』 角田光代
幼い頃に誘拐事件の被害者となり、
実の両親のもとに戻った主人公は、家族との軋轢に悩む。
けれども自分には、誰かにきちんと愛された記憶がある。
愛してくれたその人とは。