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兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #53

再び朝井まかてさん

Selected by 安積秀幸副校長先生


再び朝井まかてさん




私が選んでしまう時代小説は、
江戸時代の人情味あふれた物が多いように思います。

読んでいて人を思う心にジーンとなったり、
時には涙が出そうになってしまうことがあります。

兵庫県播磨高等学校は海外に姉妹校が3校あります。
相互交流の中で相手校の先生方と話をしていますと、
必ず本校で取り組んでいます教養の話になります。

「形から入って心を育てる」話ですが、
その時にはふと今までに読んだ時代小説の
暖かい人と人のつながりが心に浮かんできます。

多くの時代小説は図書室からも借りて読みましたが、
岩崎先生にお借りした朝井まかてさんの小説を紹介しましょう。









花くらべ

花競べ 向嶋なずな屋繁盛記
朝井まかて 著(講談社文庫)



草木を扱い育てる花師の職人小説です。
質素倹約を奨励した松平定信も登場します。

出入りしていた職人から預かり育てている子どもの「雀」、
本当の名前は「しゅん吉」ですが、
少し鼻づまりで自分のことを「ちゅん吉」としか言えず、
いつの間にやら「雀」とよばれようになってしまいます。
その「ちゅん吉」がなかなか存在感のある動きをする、
ほほえましい小説に仕上がっています。

「なずな屋」という今でいえば
植木屋さんとか花屋さんになるような
仕事をしている夫婦が主人公になっています。
吉野太夫」の「吉野」が「染井吉野」になる
といういきさつもなかなか面白い話です。

人情味あふれる時代小説ですが、
ハッピーエンドではありませんでした。

大事な人を亡くした若旦那の
「寿命が尽きるその日まで生き抜くよ。精一杯稼いで、食べて、遊ぶよ」
は、話の流れから見てなかなかの一言と感じました。





恋歌

恋歌(れんか)
朝井まかて 著(講談社



直木賞受賞作品です。
歌人中島歌子の生涯を描いた小説です。

朝井まかてさんの小説は、
『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』も『先生のお庭番』も
植物が大きな位置を占めていますが、
この『恋歌』にはあまり植物は出てきません。

歌子の弟子が歌子の手記を読み始めることから始まります。
最初のころは話がどのように展開しているのか
分かりにくかったのですが、
幕末の安政の大獄、その実行の水戸藩天狗党
その中心人物に恋焦がれて結婚した登世は、
天狗党と諸生党との権力争いの渦に巻き込まれます。
壮絶な生涯です。

対立していた諸生党の中心人物の娘が
歌子のお手伝いさんをしているのですが、
その結末が想像もしていなかった展開でした。

日本史で習った人物がいろいろと出てきます。
ハラハラしながら読んでいきました。





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藪医 ふらここ堂
朝井まかて 著(講談社



新聞広告に出ていたのを見つけて、
岩崎東里先生にお借りした本です。

ふらこことはブランコの事です。
大きなヤマモモの木にふらここを懸けている
小児科医「ふらここ堂」の医師三哲は
自他ともに認める藪医者、
いや筍医者(これから藪に育っていく)ですが、
実は高名な医師の生まれで、医術をちゃんと修めた医者です。

それを表にせず言いたいこと言う口の悪い医者ですが、
いつも適切な処置をします。
その娘「おゆん」が主人公ですが、
おゆんも父親の生まれ育ちを知りません。

時代小説の例にもれず幼馴染の次郎助や次郎助の母のお安、
お亀婆さんをまじえた人情話です。
時代小説には必ずと言っていいほど心に残る言葉が出てきます。
今回も

秋の夕暮は不思議だ。
昼間はあんなに空が高いのに日が傾けば空が下りてきて、
人に近づくような気がする。
雲が茜色に照り映え、笑い声がよく響くのだ。

と、今まで思ったことのないような秋の風情が描かれています。

また、お亀婆さんはふらここを漕ぎながら、

「人はこうしてさ、ふらここみたいに揺れながら生きている。
正と邪の間をね、行ったり来たりしてるのさ。
正しいことばかりできる人間もいないし、
邪なだけの人間もまあ、めったといやしない。
ある日は正に振り切っても、ある日はどっちつかずの、
中途半端なことをしでかしている。正邪の目盛が違うだけでね、
そのいずれも己自身だ」

という一言も、印象に残っています。


*TOPの画像作成にあたり、素材をお借りしました。
 http://hibana.xii.jp/copyright.shtml



* 「副校長の読書散歩」とは?