副校長の読書散歩 #30
Selected by 安積秀幸副校長先生
小学生の時から体が弱く、
小学校4年生のころに右足膝の関節炎で長いことギブスをし、
その後も小学校卒業まで運動はできませんでした。
そのことからも、外で運動するより家の中で本を読むことが好きでした。
私の読書好きもこのことから始まっているのかもしれません。
学生時代には、岩波新書を1日1冊という目標を立てて1か月余り続けたことを
第5回に書かせていただきました。
学生時代に購入した本は、まだまだ我が家の本棚に並んでいます。
購入したまま途中まで読んでそのままの本もあります。
気になりながら読む機会を逸したままの本、改めて読みなおしてみた本から、
明治時代の文豪の作品を紹介します。
大正3年4月20日から朝日新聞で連載され始めた
漱石の代表的な小説です。
朝日新聞では連載開始百周年にちなんで、
平成26年4月20日から再度連載を始めました。
その連載欄に5月から「『こゝろノート』*を希望者に配布します。」と
ありましたので、早速連絡をとり、10冊いただきました。
本校は昨年度からNIEの実践研究指定校になっていますので、
国語の先生にもお渡しをしました。
いろいろな考え方で活用していただければと思っています。
それを機会に、学生時代に購入した文庫を引っ張り出し読んでみました。
学生時代に読んだ時には、
後半の「先生」の遺書を読んで自分も同じように
「K」を裏切るようなことをするのではないかと感じたと思います。
遺書を書いた「先生」は「K」を裏切り、自殺に追いやったことを
悔やんで悔やんでの人生を送り、明治時代が終わった時に
「K」を裏切ってまで結婚をした奥さんにも黙ったまま命を絶ってしまいます。
漱石が「則天去私」に至る小説と位置付けられていますが、
今回読んでみて「よくわからない。」というのが私の実感です。
奥さんには、厭世的な生活を送ってきた理由も告げず、黙って命を絶つ。
「明治という時代に殉死する。」と言っていますが、
現代の私には全くわからない感覚です。
「K」に対してした裏切りを、今度は奥さんに対してしていることに
気がつかないのかと思ってしまいます。
「先生」は自分の人生だけを考えて、奥さんの人生はどう考えているのか。
友人に対しては一生悩み続け、妻に対しては何も考えないでいいのか。
『こゝろ』だけを読むからとか、
読みが足らないと言われればそうかもしれません。
明治という時代の男女の考え方や時代背景、その時、その時代の人々の生活を
実際に体験しないとわからないのではないかというのが実感です。
*「こゝろノート」:
今年の4月から朝日新聞で連載している「こゝろ」の紙面を、切り抜いて貼り、書き写してみたり
感想や絵を書いてみたりすることのできるスクラップノート。
ファウスト(第一部、第二部)
ゲーテ 著・森林太郎、相良守峯 訳(岩波文庫)
森林太郎(鴎外)訳の『ファウスト』を購入したのは1975年3月1日。
購入日と購入価格を奥付の隅に鉛筆で記入していました。
その当時、大学の近くに学生が古本屋を開店しました。
店の中には未整理の本が段ボール箱に入ったまま床に並べてありました。
店主が「段ボール箱の中も見てもいいよ。」と言ってくれましたので、
何日か通いました。
今は、「ちくま文庫」から森林太郎訳が出版されているようですが、
その時、既に絶版となっている岩波文庫の森林太郎訳『ファウスト』が、
第一部と第二部が別々の箱に入っているのを見つけました。
*ちくま文庫版
この2冊を一緒に買うと高い値段を言われると困りますので、
1冊ずつ別の日に知らんぷりして買うことにしました。1冊50円でした。
1冊目を買ってから2冊目を買うまでに
誰か他の人が買ってしまわないか心配しながら、
1日おいてもう1冊を50円で買うことができました。2冊そろって100円。
しめしめと心躍らせ、読み始めてみましたが、
全く興味がわかずそのままにしておりました。
しかし、3月4日には神保町の信山社でドイツ語の
レクラム文庫の『ファウスト』第一部と第二部を
それぞれ420円で購入しています。
就職してからは、相良守峯さんの岩波文庫も4月13日に買っています。
いつか読むだろうと思っていたのだと思います。
この度、意を決して読んでみました。
第11回で書きましたように、私は本を解説から読むことが多いのですが
この時は、最初から、解説を読まずに読み始めました。
何を言いたいのかよくわかりませんでした。
学生時代に諦めたのがよくわかりました。
第一部の途中でしたが、解説を読んでみることにしました。
森林太郎訳には、解説がなく
第二部の巻末に「蛇足」と書かれた文があり、
おもしろいことが書かれていました。
明治44年桂太郎内閣の時に、政府は文芸委員会を設置し、
森鴎外をはじめ、幸田露伴、島村抱月などを
その委員会の委員として任命しています。
委員会の目的が、発行された文芸作品の審査と表彰、
日本の優れた作品を翻訳して海外に紹介すること、
外国文学を日本に翻訳紹介すること等でした。
その時の予算が一萬三千円(1万3,000円)。
しかし実際に行った仕事は、
坪内逍遥の表彰に二千二百円をかけたこと、
島村抱月の『ドン・キホーテ』、
森鴎外の『ファウスト』を得たことの2つだけだったと
政府に対してとても厳しい解説がついています。
森林太郎の『ファウスト』が世に出た経緯を知ることができました。
相良守峯訳の第一部には長い解説が書かれています。
ゲーテが、住んでいる地域に語りつがれている「ファウスト物語」をもとに
一生かけて構想を練り、推敲を重ねたことが書かれていました。
またその後には、『ファウスト』全体のあらすじが
わかりやすく書かれています。
この2つの解説を読んで、改めて気合いを入れて読んでみました。
森林太郎こと鴎外の訳と相良守峯訳を読み比べてみて、
何と相良訳が読みやすいこと。
しかし、鴎外訳にはリズムを感じます。
* 「副校長の読書散歩」とは?