兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

参与の読書散歩 #64

和の色に出会う

Selected by安積秀幸参与先生

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「和の色」のことについては、第7回の
「日本人の忘れもの」でも少し紹介しましたが、
日本には本当に微妙な色の違いが異なった名前で伝わっています。

「城ケ島の雨」の北原白秋の歌詞にも
「利休鼠の雨が降る」
と出てきます。
以前からどんな色なんだろうと思っていました。

兵庫県立豊岡高等学校で一緒に勤めていました鳥取のYさんに
「染司よしおか」のコースターをいただき、
その渋い色に驚きました。

今回は、引き続き朝井まかてさんの作品と、
「和の色」を集めた事典ですが、
「和の色」の素晴らしさに新しい発見をすることができました。







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残り者
朝井まかて 著 (双葉社



縹色(はなだいろ)、憲法黒(けんぽうぐろ)や
繧繝縁(うんげんべり)をはじめ、
白綸子地に筥牡丹唐草紋の縁錦など――
聞いてわかりますか?
「豪華絢爛な雰囲気はわかるものの、さてどんな色?どんな模様?」と
聞きたくなるような言葉が随所に出てきます。

この本は岩崎東里先生に『眩』をお返しした時に借りました。
前回と同じ朝井まかてさんの
江戸時代末から明治時代の初めにかけての小説です。
表紙カバーに素晴らしい色模様の
着物姿の登場人物五人が描かれています。

慶応四年四月十日、
江戸城明け渡しを明日に控えた大奥で始まります。
天璋院篤姫)に仕えた呉服之間の「りつ」、御膳所の「お蛸」、
御三之間の「ちか」と御中臈の「ふき」、
静寛院(和宮)に仕えた呉服之間の「もみじ」の五人が、
それぞれ一橋邸や田安邸に移らずに
江戸城中に残った長い一日の物語です。

天璋院付と静寛院付の者たちの対立感情と絡み合って
おもしろく話が展開していきます。
なぜ、この五人は命令に逆らって江戸城内に残ったのか。
御中臈の「ふき」はそれとなく
旗本出身の「りつ」にその一端を話すのですが、
肝心のところははぐらかしてしまいます。
また、その言い方に面白さを感じます。

みんなが江戸城から撤退する時の慌ただしさ、
五人だけになった城内の静けさ、
官軍が入ってきたときの雑然とした雰囲気が、
朝井まかてさん独特のリズムのある文で見事に描かれています。

大奥のきらびやかな一端と、幕府が崩壊し江戸城を明け渡す前後の、
喧噪、静けさ等、表現の素晴らしさに、
時間の移り変わりを楽しむことができる作品でした。

ところで、縹色、憲法黒とはどんな色なのか、興味ありませんか?




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定本 和の色事典
内田広由紀 著 (視覚デザイン研究所)



気になっていた「利休鼠」、この事典で調べてみました。
緑のかかった灰色です。
雨に煙る風景を見事に表現しています。

兵庫県立豊岡高等学校に勤務していましたのは
もう10年近く前になりますが、その頃に
視覚デザイン研究所から
「和の色事典」の紹介パンフレットが送られてきました。
前回紹介しました版画の素晴らしい色の表現のこともあり、
図書室で購入することにしました。
たくさんの色に大きな驚きを感じました。

この事典が気になっており、
あらたに購入して今も本棚に並んでいます。

「日本の色名は500の固有名と100のトーンの組み合わせでつくられている」
と書かれています。

ところで、「残り者」で出てきている縹色、憲法黒とはどんな色なのか、
「定本 和の色事典」を調べてみました。


「縹色(はなだいろ) 
別名 花田色・縹色(ひょうしょく)・花色 

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青色の代表的な色名。古くははなだ色、平安時代は縹色、
江戸時代には花色と色名を変えて伝わった。」とあります。
ツユクサの花の青い汁で摺染したことに由来するとあります。
また、落語の「花色木綿」に出てくる色とあります。
「あの花色木綿の色か」と新しい発見をしました。
落語を聞いていた時「花色」は、
桜の花に近い色かなと思っていたものですから。


憲法色(けんぼういろ) 
別名 憲法黒・憲法茶・憲法色(けんぽういろ)・憲法染・吉岡染・兼房

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京都の染匠・吉岡憲房によって考案された吉岡染の色。」とあります。
「橙みの黒」の系列と書かれていますが、渋みのある色です。
吉岡家は宮本武蔵と決闘した吉岡一門としても有名です。
武士に好まれた色のようです。


しばらく、「和の色事典」を楽しんでしまいました。




* 「副校長の読書散歩」とは?