兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #56

忙しくなると

Selected by 安積秀幸副校長先生


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どうも仕事などが忙しくなると本が読みたくなる性分は
若い時から続いているようです。
高校生の時にも試験が近づくといろいろと本が読みたくなって、
試験勉強をほったらかしにして読みふけったことが
何回もありました。

年度末に近づくにつれ、ばたばたとした日が続きます。
そうすると若い時からの虫が顔を出して
数冊の本を並行して読み始めてしまいます。
机の上には読みかけの本が数冊積みあがってしまいます。

今も同じような症状が起こっています。
通勤電車の中でも読みふけっています。
乗り過ごさないように気をつけながら。

読み終えた本を紹介しましょう。





声をあげよう

声をあげよう 言葉を出そう
安水稔和 著(神戸新聞総合出版センター)



この本の副題には「神戸新聞読者文芸選者随想」と書かれています。
神戸新聞の読者文芸欄の詩の選者をされている
安水さんの随想です。
見開き2ページで1つの随想が書かれていて
大変わかりやすく、読みやすい本でした。

随想と副題に書かれていますが、全ての文章が「詩」だと感じました。
書かれている文の体裁は決して詩のような形ではないのですが、
読んでいて詩を読んでいるような感覚でした。

自然を見、人を丁寧に見られている文章でした。
戦争体験のことも書かれています。
阪神・淡路大震災の体験談も書かれています。
お孫さんとの触れ合いも書かれています。
菅江真澄*のことも書かれています。

何より印象に残っていることは
竹中郁さんがしばしば登場されることです。

そのうちの1つに「もう一本の傘」というのがありました。
竹中郁さんは兵庫県播磨高等学校の校歌の作詞をされています。
このコーナーでも第22回に竹中郁さんを取り上げましたが、
神戸の竹中郁さん行きつけのお店に、
竹中郁さんの書かれた傘の絵が残っていることを思い出し、
興味深く読ませていただきました。
番傘の詩だけでなく、蝙蝠傘の詩も紹介されています。

どの話にも、「いいなあ」と感じる一言を発見できます。
安水さんの優しさあふれる1冊です。

この本を読み終えてから神戸新聞読者文芸欄の選者評を読みました。
選ばれている詩もほんわかと暖かいものが多いのですが、
評も暖かくゆったりとした気分になることができました。

 
*菅江真澄
 江戸時代後期の国学者・紀行家。
 生地である三河から北上して東北を巡り、蝦夷地にも足を伸ばしました。
 各地を歩きながら残した200冊に及ぶ記録は、「菅江真澄遊覧記」と総称され、
 挿絵の風景画とともに貴重な民俗資料として知られています。




花鏡

室町耽美抄 花鏡
海道龍一朗 著(講談社



この本を読むきっかけは新聞の広告です。

日本の伝統美が4人の人物伝を通して書かれています。
「風花」は世阿弥元清、「花鏡」は金春禅竹
「闇烏」は一休宗純、「詫茶」は村田珠光です。
申楽と能にかかわる「風花」と「花鏡」は
一続きのように読むことができました。

「風花」では、足利義満世阿弥

「そなたが舞わずとも、花はいつか散る。
されど、それはただ悲しいというだけのことではあるまい。
余の眼には、全く別のものが見えておるのだがな」
「・・・・・・義満様には、何が見えているのでありましょうや?」
「風の姿だ」

という会話から全てが始まっているように思えます。

「花鏡」では、世阿弥の奥義をめぐって
いろいろな人の葛藤が書かれています。
しかし、その奥義とは?面白い展開でした。
 
「闇烏」での一休さんは、
幼い子どもと一緒に見たテレビアニメ「一休さん」とは
全く違った激しい人物が描かれています。
タイトルに出てくる闇烏は一体誰の化身なのでしょうか?

「詫茶」の村田珠光ですが、
珠光を扱った小説はあまり読んだことがなく、
興味深く読み進めることができました。
武野紹鴎、千利休へと続く侘茶。
タイトルとなっている人偏ではなく言偏の「詫茶」は、
登場する一休宗純のひとことなのですが、なかなか面白い展開でした。

世阿弥の奥義、闇烏、一休宗純の一言は
それぞれの方々の求道にかかわる言葉です。
日本伝統美のひとつのおもしろいとらえ方と感じました。

日本の伝統芸術となっているそれぞれの道に取り込まれた
自分自身との厳しい戦いが切実に感じられる4編の話でした。







天の茶助

天の茶助
SABU 著(幻冬舎文庫



この小説を読むきっかけは、2015年10月20日に本校へ来られました
ナザレ校の副校長先生から、後日いただいたメールです。
そのメールの追伸には次のようにありました。

 I met Her Imperial Highness Princess Takamado yesterday in Warsaw!!
 The Embassy of Japan invited us for a very special evening
 when we could watch the film: "Chasuke's journey" directed by Sabu.
 Her Imperial Highness Princess Takamado welcomed everyone
 and mentioned that it was her second visit in Poland.

(訳)
 昨日ワルシャワにて、高円宮妃殿下にお会いしました!!
 日本大使館が、SABU監督の映画『天の茶助』を観ることができる、
 とても特別な夕べに私たちを招待してくれたのです。
 高円宮妃殿下は、皆を歓迎してくださり、
 ポーランドを訪れるのはこれで二度目だとお話されました。


その時上映された映画の「Chasuke's journey」というタイトルが
気になり、調べてみました。
その原題が「天の茶助」で、文庫で出版されていることを知り、
帰りに本屋さんで買ってしまいました。

全く奇想天外な展開の小説でした。
茶助は天で我々地上の人類一人一人の人生のシナリオを書いているところで、
ライターにお茶を配っていました。
ライター達は、時々お越しになる「あの方」の発する
ひとことに沿うようなシナリオを書いています。

ある時「あの方」は「斬新ぃ〜ん!斬新ぃ〜ん!」といって帰られました。
今まで考えていたシナリオを書きかえるために
ライターは茶助に助言を求めます。
その茶助の一言で、茶助が気にしている女性ユリが
交通事故で死んでしまうというシナリオが描かれます。

ユリを助けるために茶助は、地上界に降りることになります。
この後がまあまあスピード感にあふれた手に汗を握る展開となります。
「あの方」の言われた「斬新ぃ〜ん!斬新ぃ〜ん!」なんでしょうか。

買った文庫本は鳥取のYさんにお送りしました。
Yさんから、「『天の茶助』はなぜ送ってもらったのでしょうか。」
と聞かれました。
またお会いした時に感想をお聞きしたいと思っています。

非常に楽しく読ませていただきました。
機会があればナザレ校の先生と
お互いの感想を話してみたいと思っています。







日本婦土記

日本婦土記
山本周五郎 著(新潮文庫



この本は、茺田嘉之先生に紹介されました。
茺田先生も本校で教員をしていることを友人に話をされたところ、
この本をぜひ読むべきだと言われたそうです。

山本周五郎著作は学生時代に一度凝って読んでいたことは、
第15回目にもお話をしましたが、今でも文庫本が本棚に残っています。
人間味あふれる、また、滑稽とも思えるような面白さに
のめり込んだ時期でした。

久しぶりに読んだ山本周五郎でした。

この本の解説によると、山本周五郎の本名は清水三十六(さとむ)。
山本周五郎という名前は、大正5(1916)年に徒弟として住み込んだ
質屋の御主人の名前です。
「生涯の恩人」であるご主人は、
共に自然科学や人文科学の読書に励み、
三十六を夜学に通わせるなど物心両面で支援された方だそうです。
その「生涯の恩人」の名前を名乗っておられるそうです。

江戸時代の武士を中心とした社会の女性の生き方が
11篇の小説で紹介されています。
現在の我々から見ると「何でそこまで」と思うことが多いのですが、
「清々しいまでの強靭さと、凛然たる美しさ、哀しさがあふれる
感動的な作品」とカバーに紹介されています。

最後の「二十三年」は、
ある会津武家に奉公にあがった「かや」が主人公です。 
やがて、奉公先の奥さんが亡くなり 、
その上松山に移りますが、その間「かや」は
記憶もなく口もきけないふりをして一家を支え続けるのです。

「不断草」は、
類が及ばないようにとわざと離縁された「菊枝」が、
目の見えない義理の母親に尽くす道を選ぶ話です。
読み終えた時には涙が出そうになりました。

解説には山本周五郎さんの思いも書かれています。
是非、解説を先に読んでから11篇の小説を読んでください。




* 「副校長の読書散歩」とは?