兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #47

朝井まかてさんの時代小説3冊

Selected by 安積秀幸副校長先生


IMG_1511


久しぶりに気楽に読める時代小説が読みたくなって図書室に行きました。

関西弁のタイトルが目につき、読み始めました。
以前に紹介しました高田郁さんの「みをつくし料理帖」シリーズとは違った
シャープさのある時代小説です。
岩崎先生に伺いますと、この本は
この3月で退職された西澤繁先生の寄贈との事でした。

今回紹介の3冊には、歴史上の実在人物の名が出てきます。

岩崎先生がこの3冊以外にも持っておられるので、
お借りして読んでみようと思っています。






IMG_0610

ぬけまいる
朝井まかて 著(講談社



一膳飯屋の娘お以乃、御家人の妻お志花、小間物屋の女主人お蝶は、
「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれた江戸娘三人組だった。

3人の名前もちょっとふざけた名付けであり、
お以乃の恋の相手が「清水の次郎長*」であったり、
とにかく奇想天外な展開が続く時代小説です。

それぞれ三十路にさしかかった3人が、
「お蔭詣り」とか「抜け詣り」と言われている、
伊勢参りに突然出かけることになります。
3人が3人ともそれぞれに思い悩みながら「ぬけまいり」を始めますが、
その中での3人のお互いを思いやる気持ちもなかなか気が利いています。
江戸っ子の粋な立ち居振る舞いが面白さをさらに高めています。

久しぶりの時代小説を楽しませていただきました。

*清水の次郎長:
幕末から明治時代にかけて、任侠(にんきょう)の世界に生きた人物。
面倒見が良く、弱き者を助け強き者を挫く“天下の大親分”と呼ばれました。







IMG_0519

すかたん
朝井まかて 著(講談社



「すかたん」というあだなをつけられた
天満青物市場の頭取を務める「河内屋」の若旦那。
江戸の饅頭屋の娘だった知里は、
河内屋のお家はん(女主人)のお付となります。

すかたんの若旦那は、実は野菜を作っている農家の人の事を
本当に大切に思って様々な行動をしますが、
青物市場の問屋の一般的な発想と違っており、
いろいろと問題をおこします。

知里と若旦那の恋の進展とともに話が進みます。
幻の蕪を探し回りますが、
これは伊藤若冲*の絵がきっかけになっています。

お家はんが知里に言った

「仕事いうもんは片づけるもんとちゃいます。
 どない小さなことでも、
 取り組んだ物事の質をちょっとでも上げてこそ仕事や」

という言葉は、私には耳の痛い言葉です。

*伊藤若冲(いとう じゃくちゅう):
 江戸時代の京において活躍した絵師。
 明治時代以降、生前ほどの知名度をなくした時期もありましたが、
 近年、アメリカ人収集家ジョー・プライスによって、
 その作品は再び脚光を浴びています。
 若冲の作品には、蕪や大根といった野菜が、多く登場します。






西鶴

阿蘭陀西鶴
朝井まかて 著(講談社



江戸時代、俳諧や『好色一代男』や『世間胸算用』等の
草紙で一世を風靡した
井原西鶴の娘「おあい」の物語です。
盲目のおあいを母親は、
自分の死後も生きていけるように厳しくしつけます。
母親の死後二人の弟は養子に出されますが、
おあいは父西鶴のもとで生活します。
遊び歩いている父親が大嫌いだったおあいは、
好色一代男』の原稿を書くための淡路への旅についていきます。
その時についてきた辰彌と浜での会話の一節を紹介します。

「けど、どちらさんもいろいろあるんやなあ。
結構なご身分に見えているのに」

辰彌の声が風に流れて、語尾が曖昧になった。

「やめて。可哀想がられるの、一番、厭や」

すると辰彌は呆れたように、「阿呆か」と吐いた。

「あんたのことやないわ。井原先生が気の毒やと言うたのや」

そして言葉を刻むように、ゆっくりと言った。


「あんたのことが可愛いて自慢でたまらんのは、
傍で見ててもようわかる。ほんの数日、一緒におるだけでな。
けど、それがあんたにはちっとも伝わってないのやもの」


ここから新たな展開が始まります。





* 「副校長の読書散歩」とは?