兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #38

みをつくし料理帖シリーズ
Selected by 安積秀幸副校長先生

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みをつくし料理帖の『八朔の雪』はこのシリーズの第1作であり、
この読書散歩の第15回で紹介しました。

この度平成26年9月2日の神戸新聞
この「みをつくし料理帖シリーズ」が完結したと知り、
学校の図書室でも全巻揃えていただきました。
ポーランド研修旅行の移動時に読み始めることにしました。

この作品を読んでいて、人のあたたかさや思いやりの心に
涙しそうになる場面が必ず出てきます。
『八朔の雪』を紹介させていただいたのをきっかけに、
このブログでお世話になっています株式会社アピックスの職場でも、
みをつくし料理帖シリーズ」が全巻揃えられて、
皆さんが読んでおられる話もお聞きしました。
きっと涙あふれる人情の世界を楽しんでおられることと思います。

このシリーズの特長は何と言っても
巻末に題材となった料理のレシピが掲載されていることでしょう。
一度試してみたいと思っています。

今回は完結した全10巻、既に紹介しました『八朔の雪』以外の
9冊のうちの5冊を紹介します。





花散らしの雨

花散らしの雨――みをつくし料理帖
高田 郁 著(角川春樹事務所 時代小説文庫)



ポーランド研修旅行中の移動時に読むため、
次の『想い雲』と2冊を図書室から借りて
ポーランドまで持っていきました。

ナザレ校での交流初めのオープニングセレモニーでは
ポーランド語であいさつをすると決めていましたので、
セレモニーが終わるまでは原稿を読み、
覚えることに必死になっていましたので
読み始めることができませんでした。

この本を読み始めたのは、
ワルシャワからクラクフへ移動する列車の中でした。
本を読みながら泣いたり笑ったりの表情をしている私を
同行の方は変に思われたのではないでしょうか。





想い雲

想い雲



途中までポーランド研修旅行中の帰りの飛行機の中で読んでいました。
最後の「初雁――こんがり焼き柿」で
渋柿をおいしく食べる方法の一つに、
柿を皮付きのままくし形に切って炭火で焼く方法が書かれています。

帰国してから、親友の上山和夫先生と話をした時、
たくさんの渋柿をいただきました。
ためしにやってみました。

本には8つ切りとありましたが4つ切りにして、
炭火はありませんでしたので
オーブンレンジにアルミホイルを置き、その上に柿を並べ約20分。
表面から柿の汁がふつふつと出始めたらできあがり。
熱いうちでないとだめと書かれていましたので
ふうふうと息を吹きかけながら食べました。
後口に渋みが残りますが、甘くおいしくいただきました。
一度試してみてください。





今朝の春

今朝の春



火事で焼き出され話せなくなった子どもを思う夫婦の話など、
心に残る話が続きます。

この本で興味深い言葉を教えていただきました。
「友待つ雪」です。
雪が降って、融け残った雪のことだそうです。
次の雪が降るのを待つ。友を待つ雪。
「白色の色わきがたき梅が枝に友待つ雪ぞ消え残りたる」
という古歌からの言葉と書かれています。
「友待つ雪」にもいろいろとありますが、粋な言い方ですよね。





小夜しぐれ

小夜しぐれ



「夢宵桜――菜の花尽くし」では、
徳川家康が詠んだといわれている短歌
「咲く花を 散らさじと思う御吉野の 心あるべき春の山風」
が出てきます。
お家騒動にならないように出家せざるを得なかった
落胤*の起こした騒動が、この短歌で静まります。

この展開、一体どうなるのかとはらはらしながら読み進みましたが、
ストンと落ちてしまいました。この運び粋ですよねえ。
このシリーズは涙をほろりとさせる人情話でありながら、
必ず粋な場面が出てきます。

*ご落胤:正妻ではない女性が、身分の高い男性との間に産んだ子どもを指します。




心星ひとつ

心星ひとつ



この本のタイトルになっている「心星ひとつ」の話より、
「天つ瑞風」が印象に残っています。
大坂に住んでいたころ被害にあった水害で、
淡路屋のこいさん*だった幼馴染は店も家族もすべてなくし、
江戸で花魁になっています。
その幼馴染と、周りの人々の温かい気持ちで
束の間のひと時を過ごします。

水害以来自分の頭の上にはずっと
厚い雲が垂れ込めたままと感じている。
けれど、

「どないに辛いことがあったかて、生きて生きて生き抜く、と決めた。
亡うなった家族のためにも、自分の人生を諦めへんと決めたんや。
そういう生き方を貫いたなら、きっと厚い雲も突き抜けられるやろ。
私はそう信じてる。・・・・・」

という言葉が忘れられません。

今回から、巻末に「みをつくし瓦版」という新しい企画が始まりました。
楽しみがひとつ増えました。

*こいさん:関西地方の方言で、末のお嬢さんを呼ぶ言葉です。




* 「副校長の読書散歩」とは?