兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #31

宮城谷昌光さんの小説

Selected by 安積秀幸副校長先生

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宮城谷昌光さんの『古城の風景?』を第27回で紹介しました。
同書は愛知県の古城の紀行文ですが、
宮城谷さんと言えば中国の歴史小説で有名です。
毎日新聞では今、宮城谷さんの「劉邦」が連載されていますが、
いずれ本として刊行されるのを楽しみにしています。

『古城の風景?』に続けて
国語の先生に「読んでみては?」と言われて読み始めました。
あまりにも広大な展開に、
地理的な広がりや時間の経過、人と人とのつながりが、
どのようになっているのか分からなくなります。
多くの本には地図が書かれており助けられることがありますが、
展開の面白さに地図を見ないで読み進んでしまうことがよくあります。
これだけの大作を書かれるには、
調査されるのに大変な時間を要するのではと
感じながら読ませていただきました。





天空の舟1 IMG_78404


天空の舟
宮城谷昌光 著(文春文庫)



今、NHK大河ドラマで「軍師 官兵衛」が放送され、
姫路は大変盛り上がっています。
家族と「昔の戦は今と比べて何と悠長な。」と話をしながら見ています。
しかし、見ていてつくづく感じるのが
いつの世も戦いとは情報戦であるということです。

古代中国の「商」という国の軍師「伊尹(いいん)」の小説です。
主人公の「伊尹」のことは、この小説を読むまで全く知りませんでした。
展開は宮城谷さん独特の展開を感じるのですが、
多くの書物等を調べられているのがわかります。

おのれを縛るおのれを超えよ。もとより自分の生死は軽いのだから。
人がもしおのれに与(くみ)せぬならば、
天地とともに生き、自分だけの野を拓こう。

というところが印象に残っていますが、
現在とは違った時の流れを感じる戦です。
いつの世も、正確な情報を早く得たものが勝利をおさめています。

仕事中でも、新しい情報を教えてもらった時に、
「何で今頃、もっと早く教えてよ。」と感じるときもあれば、
「すばらしい。こんなことをこんなに早く。どこから聞かれたの?」
とおどろき、教えていただいたことに感謝することもあります。
正しい情報をいかに早く得るか、その情報により、状況をどのように把握し、
いかに対応するか。よく言われている「先手必勝」につながることを
しみじみと感じながら読ませていただきました。






管仲1 管仲2


管仲(上・下)
宮城谷昌光(角川文庫)



この本を紹介いただいた先生も、
「近頃、宮城谷昌光さんにはまっている。」
ということで借りて読みました。

「管鮑の交わり」で有名な管仲と鮑叔の話です。
中国春秋時代の斉の国の重臣である管仲と鮑叔の
立場の違いを超えた友情の話です。

この小説を読んで思ったことですが、管仲と鮑叔の二人の関係は
友情を超えた、互いに、本当に信頼できる間柄であることを感じます。
斉の王となった桓公は幼少の頃は鮑叔、王となってからは管仲が支えますが、
この小説を読んで、
桓公は二人が育てた(つくり上げた)王と言えると感じました。
管仲が射た矢に命を落としかけた桓公が鮑叔の推薦で管仲を重用しますが、
王の懐の深さにも感心してしまいます。

管仲が家宰である檽垣(じゅえん)に言った言葉が印象的です。
上巻の最後あたりに、

長の器量は左右に侍る者の良否で、大きくも小さくもなる。
すべてを自分でおこなおうとしてはならぬ。
自分をおぎなってくれる者をさがし、
いちど信頼したら、疑ってはならぬ。
また、いちど決断したら、
すぐに言をひるがえすようなことをしてはならぬ。
長とはそういうものだ。

とあります。
なかなか実行できない内容のある言葉ではないでしょうか。
民に目を向けた政治をすることの大切さ。どこかの国の政治家、
どこかの県の議会議員に心してほしいことだと
つくづく感じているこの頃です。





* 「副校長の読書散歩」とは?