兵庫県播磨高等学校の取り組み「読書の学校」の模様を発信中です。

副校長の読書散歩 #17

      

学校に寄贈された文庫本から

selected by 安積秀幸副校長先生

たて


「図書室だより」に、新聞に出ていた
「文春文庫50冊を寄贈します」の広告に
図書部員が応募して文春文庫を寄贈していただいたことが紹介されました。

私も仕事の合間に図書室を訪問するのですが、
その時に岩崎東里先生から、
寄贈された文春文庫も何冊か紹介されました。

今年出版社から寄贈された文春文庫と集英社文庫本の中から
岩崎先生に紹介された文庫本を読んでみました。
図書室から借りて、通勤の電車の中で読みました。

またまた時代小説ですが、その人情味あふれたあたたかさから
しばらく離れられそうにありません。




まんまこと    こいしり


まんまことシリーズ『まんまこと』『こいしり』
畠中 恵 著(文春文庫)



「まんまこと」とは漢字で書けば「真真事」。
畠中さんの「しゃばけ」シリーズは
病弱の若旦那が妖怪の助けで難事件を解決していく展開ですが、
同じような展開ながら
ここでは父親の町名主の代理として若旦那が解決していきます。

「よっ、憎いねぇ!」で始まる『まんまこと』の解説。
この解説を書かれた吉田伸子さんは、
巻末の解説が最後に読まれるということを考えられていません。
最初に読まれることを考えておられます。

『本人達にとっては大事ないざこざ』を、
どんなふうに畠中さんがこしらえたか、は実際に本書を読まれたい。

と書かれている。

一方、『こいしり』の解説は、
「優れた時代小説家は幻視者である」で始まる。
この解説で細谷正充さんは、

「だって時代小説は、自分が生まれる遥かな過去――
実際に見ることのできない風景や文物を描き出しているのだから。
江戸の匂いや息遣いが、文章の間から如実に伝わってくるのは、
書き手が優れた幻視者である証左であろう。」

と書かれている。なるほど、その通りと思ってしまう。

このシリーズは、本文の小説もさるものながら
解説が非常に面白かったというのが実感です。
あれこれと言うより、まず読んでみてください。
続編が刊行されているようですが、
はやく文庫本になることを期待しています。






諸刃の燕?

『諸刃の燕』
多田容子 著 (集英社文庫)



図書室で岩崎東里先生と話をしていて、
「この本は3年生の村岡香奈さんの推薦の本です。
主人公の生き方に共鳴していると言っていました。」
と紹介されました。

浪人生活をしていた主人公隼之介が
突然に書物学問奉行の跡取りとなります。
自分は何をしなければならないのかを悩みながらも、
人とは本来…と考えながら、慣習に流されずに自分の生き方で行動します。
いつも、「そもそも誰のために、何のために」と
根本に帰って考えて行動するのです。
当然、周りとの軋轢や命にかかわるような事態に見舞われますが、
周りの人たちのあたたかい支えに助けられます。

仕事をしているといろいろと悩むことがありますが、
「そもそも何のために、誰のために」という
根本的なところに帰って考えますと、
一見複雑に絡み合っていることも、案外簡単に方向を見出すことができます。
その考え方に共鳴しました。

11月19日の神戸新聞
ある市長さんの退任インタビューが出ていました。
その記事の中に

「道路、橋を造るにも、何を造るという目標から入らず、
何のためかという理念を説くことを重視した。」

とありました。この市長さんには、今までも何かとお教えいただいたのですが、
長年教えていただいた言葉の端々から、
私もそのような考えを持つようになったのではと、
またまた教えていただいた気がします。




* 「副校長の読書散歩」とは?